現在、小誌「モーターサイクリスト」3月号の編集作業のまっただ中。その巻頭特集はというと……「ツーリングってなんですか?」。
バイクに乗るのはツーリングをするためという人が圧倒的多数だと思います。では、ツーリングってなんなのでしょうか? 言い換えると、ツーリングの楽しさとは? あるいはツーリングの条件とは?
ただひたすらバイクで走ることが楽しい。時には食事をするのも忘れ、空腹に耐えられなくなったらコンビニのおにぎりを口に入れられれば「それで十分!」という人もいるでしょう。一方で、風情のある温泉や地元の美味しい名物巡りが必須という人もいるはずです。行程も下道派に対し高速カッ飛び派、日帰りメイン派に対し宿泊必須派と、人によってまったく異なりますね。
いずれにしろ、ツーリングは思っている以上に広がりのある趣味世界。そんな多様なツーリングのかたち(当然、それに正解はありません)を紹介し、大いに刺激を受けていただこうというのがこの特集です。
さて、こんな誌面を考えていると、当然ながら自問自答することになります。正直なところ私は、美味しい食事や名所旧跡を巡ることに、さほどこだわりがあるわけではありません。もちろん磐梯吾妻・裏磐梯の3ラインといった美しい景色や爽快な道を走ることに越したことはありませんが、よく考えるとこれもマストではない。プライベートでも写真撮影が趣味のため、絶景に出会えばついつい長居をして写真を撮りまくってしまいますが、それを久しぶりに見返してみると、なんで景色ばかり撮ったのだろうと少しガッカリしてしまうことも。バイクで走った結果出会った景色であるというリアルな感動までは蘇ってこないからです。何かあれば転倒してしまうという緊張感を抱きながら、目の前に広がる現実を直視し続けることで感覚が研ぎ澄まされ、その起伏をはっきりと自覚できるリアルさがツーリングの魅力……と書いたら抽象的すぎますね。
具体的な話をしますと、今、私がどこをツーリングしたいかというと、真っ先に挙げたいのが檜枝岐です。福島県の南西端に位置し、平家の落人伝説や檜枝岐歌舞伎、あるいは尾瀬の入口として知られる村。アクセスはとても悪く、東北道や磐越道の最寄りICからもなんと100㎞以上離れています。実は、この檜枝岐が私にとっての初めて出かけたロングツーリングの地なのです(いまから20年以上前のこと)。
まだ旅のノウハウをまったく持っていなかった私は、手に入れたばかりのデュアルパーパスバイクで林道を走ってみたいという思いから、栃木から林道で峠を越えて福島に入る計画を立てました。東京を朝4時に出発、一般道をひた走り宇都宮から国道121号を北上、五十里湖で県道に入り湯西川温泉へ。その先がメインイベントの林道峠越えなのですが、すでに日は暮れかかってしまいました。それでも覚悟を決めて、福島へと県境を越える安ケ森林道へ……当然ながら怖い! ソロ走行、初ダート、周囲は真っ暗、そして寒い! とにかく後悔の一語。そりゃそうです、当初は日帰りツーリングの予定だったのですから。
とにかく帰りたい、なんで来ちゃったんだろうのリフレインのなか、なんとか国道(352号)へと脱出することができました。そこでじっと朝を迎え、オープンと同時に公衆浴場に入ったときの安堵感といったら……。どんな林道を走ったのか、もうあまり覚えていないのですが、湯に浸かることができた喜びは今でも鮮明です。その後、懲りずに周囲をバイクで散策し、結局日が傾きかけたころ帰路につくのですが(日帰り予定が0泊2日旅になりました)、そのときの紅葉の美しさも脳裏に焼き付いています。
バイクは本質的に辛い乗り物ではありますが、だからこそ感情の起伏を自覚することができ、いつまでも多くのライダーが引きつけられてしまうのかもしれませんね。ツーリングの魅力をひと言で表現するのは難しいのですが、そのとき楽しいと感じたことだけが記憶に残るとは限らないようです。
檜枝岐はその後も何度か走りに行きましたが、ここ15年ほどは残念ながら一度も足を踏み入れていません。今年こそは、自分の「ツーリングの原点」を探しに再訪したいと思っています。
(2015年2月現在)