冬になり、西吾妻山が白一色の世界になると現れる、リトルモンスターの大群。その正体は…そう、樹氷! スノーモンスターというと知っている人も多いだろう。霧や氷の粒が風で樹木に吹き付けられて凍りつくと、樹木が細かい氷で覆われていくのが樹氷。どんどん成長して、真っ白で大きな塊になったのがスノーモンスターだ。
西吾妻山の木は背が低くて密集しているので、他の山域よりも小さめなリトルモンスターの大群が現れる。今回の目的は、リトルモンスターに逢いに行くこと!
西吾妻山の南斜面にあるスキー場、グランデコスノーリゾート(※現在は「エンリゾート グランデコ」)から、ゴンドラリフトに乗って山の中腹まで運んでもらう。気持ちの良い冬晴れの朝。ゲレンデは、早くもスキー客で賑わってきている。
グランデコのゴンドラリフトから第4クワッドリフトに乗り継げば、すぐに登山道に入れるが、今日は平日なので第4クワッドリフトは運休(※2024年3月現在で第4クワッドリフトは休止中)。ゴンドラリフトの終点でスノーシューを履いてスキー場の斜面を直登しはじめると、あっという間に身体が温まる。
(左上)グランデコスノーリゾートに到着(右上)ゴンドラリフトでスキー場の上をらくらく移動(下)スノーシューを装着して、いざ出発!
スキー場の頂点に到着すると、そこからはアオモリトドマツ(オオシラビソ)の森に入る。東北地方の高山で、樹氷を形成する樹木といえばアオモリトドマツなのだそう。針葉樹のなかで、もっとも多雪環境に適している寒さに強い樹木らしい。(ハイマツを除く!)
(上)アオモリトドマツを中心とした美しい森(左下)青空に樹氷がきらめく(右下)樹氷の一種、エビの尻尾。これがもっとずっと大きくなるとモンスターになる
振り向くと雲をかぶった磐梯山がそびえる
背の高い木々の間を、一歩一歩雪を踏みながら登っていく。今日はトレースがばっちりついていてラッセルの必要はないし、そもそも雪が少なくてアイゼンで登っている人もいるくらい。今シーズンは記録的な暖冬で、どこの山に行っても雪不足。今日も「この暖冬で、リトルモンスターはいるのか?」という心配が…。
(上)木を覆う氷の割合がだんだん増えていく(中)青空に白い木々が映える(下)だいぶ登ってきた! 木々の背丈が低くなっている
尾根を登りつめると、西吾妻山のとなりにある西大巓の山頂だ。そこは360度の展望! 登ってきた尾根を振り返ると、その向こうには雲に隠れた磐梯山がそびえている。そして、目の前には西吾妻山! なだらかな山容には、真っ白い木々がびっしりと並んでいる。雪山の景色はあまりにも非日常で、いつも簡単に心を奪われてしまう…。
(上)西大巓まで、もうひと踏ん張り(下)西大巓山頂に到着。西吾妻山を望む絶景!
ここからは広~い稜線歩き。トレースからわざと外れて、自分の足跡をがしがし残した。西大巓からのゆるい下りは、スノーシューで雪を蹴散らしながら子供のようにはしゃぐ。夢中で遊びながら歩いていると、…あ、逢えた! リトルモンスターの大群!
(上)ここまでひたすら登ってきたから下りで思わず笑みがこぼれる (下)青空と雪に大興奮! 童心に返って走る!
西吾妻山への登り返し、アオモリトドマツの灌木林が、もりもりとした真っ白な塊になっている。こんもりと大きなものや、細くて弧を描いているもの、いろんな形をしたモンスターたちの間を縫うようにして歩きながら、ひとつひとつに挨拶をする。
(上)樹氷のアーチ。どうしてこんな形になったの? (下)リトルモンスターレベルじゃない巨大な樹氷も
リトルモンスターに囲まれながら歩いていると、あっという間に西吾妻山の山頂に到着した。といっても一面真っ白なだだっ広い場所で、山頂の標識がどれかも分からない。「この辺だよね」と、GPSで確認をして良しとする。山頂付近には、私の背丈もないほどの小さなモンスターがたくさんいた。
(上)西吾妻山山頂で青空ランチ(下)山頂の広い雪原には無数のリトルモンスター達がいた
秋から冬にかけて少しずつ山が白くなっていき、湿気を帯びた冷たい風がリトルモンスターを育てていく様は、さぞ綺麗だろうな。見てみたいけれど、モンスターの正体を知らないままでいたい気もする。
(上)やっと顔を見せてくれた磐梯山(下)雪をまとった安達太良連峰
EN RESORT Grandeco えんりぞーと ぐらんでこ
西大巓から西吾妻山の稜線、とくに西吾妻山山頂付近は広く、視界不良になると方向を見失いやすい。必ずGPSを携帯し、雪山に不慣れな人はガイドさんに同行してもらおう。
また、西吾妻山直下には、西吾妻小屋(避難小屋)がある。(写真)
今回、私は手持ちの大きめのスノーシューで歩いたが、山岳地帯を歩くときは一回り小さい、小回りのきくサイズのスノーシューだと歩きやすい。
ゴンドラリフト山頂駅(グランデコリゾート) - [1時間45分] - 西大巓 - [35分]- 西吾妻小屋 - [10分] - 西吾妻山山頂 - [10分] - 西吾妻小屋 - [40分] - 西大巓 - [1時間15分] ‐ ゴンドラリフト山頂駅
西吾妻山の登山コース紹介や観光についての情報はこちらにも掲載しております
会津エリア
下山後は、もちろん温泉! 中ノ沢温泉の一角にある花見屋旅館へ。中ノ沢温泉は、東に安達太良山、西に磐梯山、北に吾妻連峰と、三方を火山に囲まれた静かな温泉街。毎分1万リットルという豊富な湯量が自慢だ。
花見屋旅館のおすすめポイントは、なんといっても露天風呂。広い日本庭園のなかにあり、湯船も広いのに24時間源泉掛け流し。なんて贅沢! ゆったりくつろぎながら疲れた身体を癒した。
(上)中ノ沢温泉の花見屋旅館で汗を流そう(下)日本庭園を眺める露天風呂。真冬は雪見風呂を楽しむことができる(写真は花見屋旅館提供)
会津中ノ沢温泉 花見屋旅館 あいづなかのさわおんせん はなみやりょかん
最後は、お土産を買いがてら疲れた身体に甘いものをチャージ。中ノ沢温泉街の一角にある、宝来堂製菓に立ち寄る。
いろいろな種類の和菓子が並ぶなかで迷わず手にとったのは、青々とした笹にくるまれた笹だんご。創業以来、伝統の製法を守りながら作られてきた看板商品だ。一口食べると、よもぎの香りがふわっと広がり、甘さ控えめのあんことのバランスが良い。
(上)笹だんごを天ぷらにした「天ぷらだんご」は、衣の塩味と笹団子の甘みが絶妙にマッチ! (下)笹だんごは数あれど、宝来堂の笹だんごが一番好きというファンも多い
クリームボックス大福もおすすめ。「クリームボックス」とは、食パンの上にミルク風味のクリームをたっぷり塗った、郡山のソウルフード。そのクリームをお餅で包んだ新作和菓子だ。やさしい甘さで、思わず2つ目に手がのびる…!
(左)郡山のソウルフード「クリームボックス」が大福に変身! (右)冷凍販売なので、ひんやり半解凍でも美味しい
宝来堂製菓 ほうらいどうせいか
暖冬の影響を心配したけれど、西吾妻山にはやっぱりリトルモンスターがいた。樹氷、しかもモンスターと呼ばれるほどの見事なものは、気候や植生などいくつかの条件が揃わないと出現しない珍しいものだそうだ。自然が作り出した美しい光景を、ぜひとも自分の目に焼き付けてほしい。さぁ、リトルモンスターに逢いに行こう!