森の中に建つ迎賓館で最初に出迎えてくれるのが風格漂う長屋門です。昭和18年に移築されました。江戸時代の築で両側に門番や家臣などの居室を備えた造りになっています。緑の中をさらに進むと正面玄関が見えてきます。お車寄せ(玄関ポーチ)をよく見ると鳥居の形をしています。支えている柱は、京都の北山杉が使われています。扉は、桟唐戸(さんからと)の観音開きです。秋田杉の一枚板を使った扉に縦格子が入っています。上から下まで木目が揃っているのは、一枚板から彫り起しているためです。
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体験レポート
上品で整った格調高い別邸国重要文化財 福島県迎賓館
迎賓館の館内は、通常非公開のため、年間100日程度の「特別公開」を開催しています。(要予約)
詳しくはトップページをご確認ください。
長屋門から正面玄関
客の間
玄関棟・居間棟・台所棟からなる伝統的和風住宅の玄関棟と居間棟は、廊下にも畳が敷かれています。最初の部屋「客の間」は、お客様が宿泊する部屋です。こちらの見どころは、竣工当時のまま残されている板欄間です。樹齢約2300年の屋久杉が使われています。欄間の模様は、天然香木の香りを聞いて楽しむ香道の組香の一つ「源氏香※」です。
組香の一種。香木5種をそれぞれ5包ずつ計25包を混ぜ合わせ、任意の5包を焚き聞きわける。名前は源氏物語に由来している。
居間棟(松の間・梅の間・竹の間)
松の間・梅の間・竹の間からなる居間棟では、書院造りや茶室など、日本建築の魅力を堪能できます。
お楽しみは、部屋の名前に使われている“松”や“梅”、“竹”のアイテム探しです。意外なところにあります。ヒントは、釘隠しや床の間周辺です。竹の間には、スズメもいますよ。
釘隠しと言えば、伝統工法で建てられている迎賓館は、一本の釘も使われていません。あくまでも装飾のためのものだそうです。それぞれの空間に合わせた見事な意匠を見つけるたびにうれしくなります。
上下2室の松の間は、昼間お客様をおもてなしする部屋です。意匠は、和室の格式を表す「真・行・草」の「真」とされます。
上座敷には本床、狆潜り(ちんくぐり)、違い棚を擁した床脇を構え、下座敷の火灯窓を書院に見立てた造りになっています。周囲を漆で仕上げた間越しの筬欄間、美濃紙を漆塗りの押縁(おしぶち)を使って仕上げた壁、面取りされた四方柾の床柱、雪見障子など、見どころがたくさんあります。格調高い「白九条紋」をぴったりと合わせた(紋合わせ)畳縁もお見逃しなく。
障子を閉めても外の景色が見える雪見障子は、上げ下げできる障子が一般的ですが、松の間は左右に引き分ける障子がはめ込まれています。
お座敷は、座ったときに外の景色がきれいに見えるように造られているのだそうです。確かに座ってみるとお庭、その向こうに広がる猪苗代湖の光と風まで感じられて最高でした。
松の間から梅の間に向かう途中、中央廊下の最上段にあるのが「竹の節欄間」と名付けられた飾り欄間です。慰子妃殿下のご出身地に近い輪島の漆塗りを用いています。飾り欄間は、空間の仕切りの役目も果たしています。
梅の間は、上中下の3室からなる内居間としての機能を持つ休息所です。女性の部屋ということで温かみのある朱色の漆が使用され、収納も設けられています。壁の押縁も全て朱色です。明り取りの機能を持つ菱組子欄間を擁する書院窓、本床は格式の高い「高麗縁(こうらいべり)」、座敷の畳縁は「白九条紋」です。意匠は、松の間同等、書院式「真」の座敷の格式です。
また、梅の間の上の間には、秋田杉で造られた板欄間があります。透し彫りで磐梯山が彫られています。木目を雲や猪苗代湖の小波に見立てた日本人の美意識とセンスを感じることができます。
梅の間から数寄屋造りの竹の間へ。途中、歩いていると廊下の硬さが異なることに気づきます。これは、それまで畳床だった廊下の床を、板に表畳だけを敷いて空間の区切りとしているためです。目には見えない床の硬さで足の裏からエリアが変わる妙を、ぜひ感じてください。
竹の間は、茶室ということでヒノキではなく杉が主体です。堅苦しさから離れて、侘・寂の茶の湯の世界へといざなう造りになっています。とは言え、床の間には、錆竹や床柱に京都の北山杉(天然の絞り丸太)を使い、天井は網代張り、地板は赤松の一枚もの、さらに床脇の天井板には独特な木目の神代杉と、いずれも選りすぐりの材料が使われています。
結び
あふれる情報の中で、時間に追われながら暮らしていると、美しいものを美しいと感じる心まで忘れてしまいそうになります。そんな時は、喧騒を離れて、いつもと違う空間に身を置いてはいかがでしょう。事前予約をして特別公開期間に訪ねれば、最高の材、伝統の技、眺望、採光、風の道に至るまで、さまざまな工夫が凝らされていることや、格調高い意匠に込められた意味など、匠の技、意匠の洗練度など、美学の深淵に触れることができます。