ツーリングを愛好するライダーたちと手を取り合い、がんばっている福島をなんとか応援できないか。そんな思いで昨年9月、福島県小野町で「読者ミーティング」を開催したのでした。
小野町は事故のあった福島原発から約40キロ。決して遠くはありませんから、不安視する人もいました。けれども放射線量は極めて少ない地域なのです。しかもミーティングでそこに滞在するのは1日か2日。24時間365日、そこで暮らしている小野町の人たちのことを考えれば、わずかばかりの滞在時間をむやみに恐れるのは失礼というものです。
集まったライダーは約250名。イベントとしては、集客数は少ないかもしれません。けれども地元の新聞社が取材に来て、僕らの思いを記事にしてくれました。そして後日、その記事を読んだ県の担当者が編集部に来訪、くわしく聞かせてくれと……。話はどんどんふくらんで、昨年11月にはこの「福島RIDER’Sナビ」が立ち上がりました。年内には、もっと大きなプロジェクトもスタートするようです。
原発事故後、来訪者が激減した福島。実際、県外ナンバーのクルマは業務車両を除き、ほとんど見かけなくなったそうです。放射能汚染が深刻な地域のみならず、安全とされる場所でさえ、他県民は恐れ、近づこうとしなかった。ところが、ライダーだけは違ったんですね。『OutRider』が9月に小野町でミーティングを開く、そのもっと前から、福島県内のいたるところで県外ナンバーのバイクがたくさん目撃されています。実際、僕が震災2カ月後に岳温泉、あだたら高原、磐梯吾妻スカイラインなどをバイクでまわったときも、ツーリングバッグを積載した県外ナンバーのバイクをかなり見かけました。
なぜ、ライダーたちは福島を目指したのか。地震や津波による天災と、原発事故という人災に苦しめられている土地に、浮かれ気分で出かける人はいないでしょう。きっとその多くは、福島が心配だとか、現状を知りたいとか、何か役に立てることはないかとか、そうした気持ちで訪ねたのだと思います。
恐れず向かうことができたのは、義に厚い人間がライダーには多いから? このことに関しては『RIDE』や『ミスターバイクBG』の編集長各氏が語ってくれそうだからここでは触れませんが、少なくともバイクに乗る人たちだけは、風評を恐れず、リスクから逃げず、福島へやってきた。そしてそのことを福島の人々はとても喜んでくれました。
だからこそ、「福島RIDER’Sナビ」も誕生したのです。県の肝煎りでライダー応援サイトが立ち上がるなんて、前代未聞のことだと聞いています。
行けば多少なりとも被曝はするでしょうが、数日のあいだ訪れる程度のことで怯えていては、福島の子供たちに笑われるというものです。いや、笑われるというより、無神経じゃないか、とも思うのです。除染の進まない福島県内に子供たちを留まらせ、大いなる不安と不自由な生活を強いているのが今の日本の大人たちです。県外に疎開させないでいる、その根拠とは何か。ひとまず安全だとの見解を立ててしまったからでしょう。それなのに自分たちは被曝を恐れ、いっさい近寄らないなんて……。
たとえリスクはゼロじゃなくとも、避けて通るわけにはいかないのではないか。バイクに乗り続けてきた人なら、いわゆる「危険」とされるものとは、うまく折り合いがつけられるはず。および腰では、バイクになんか乗れませんから。
今年も『OutRider』は、福島でミーティングを開催するつもりです。個人的にも何度となく足を運ぶ予定でいます。ライダーにできることは、決して小さくない。経済効果は取るに足らないものでも、がんばっている福島で、耐えている福島で、悲しみ、怒り、そして希望、つまり今ここにある福島の現実を共有すること。そのことに大きな意味があるのではないでしょうか。
(2012年4月現在)