発酵学者 東京農業大学名誉教授 小泉 武夫さん
バラエティ豊かな発酵食が息づく
“発酵県”の名にふさわしい福島
発酵学者として福島の発酵を表現するなら、「3つの独立した発酵文化圏があること」と、「発酵食の種類があまりにも多いこと」の2つを挙げたいですね。
太平洋に面し、海の文化が息づく「浜通り」、畑の食文化に恵まれた「中通り」、日本海を航行していた北前船の文化も取り込んだ「会津」という3地域で、それぞれが独立した発酵文化を育んできました。
福島の発酵食はとにかく多彩です。柿と餅米、味噌を発酵させる「柿のり(柿餅)」、つきたての餅に同量の麹を混ぜて臼でつき、3月の桃の節句まで貯蔵する「餅甘酒」、納豆と米麹、味噌を同量で発酵させ農閑期に食べる「ごどう味噌」など、珍しくてワクワクするような発酵食品が数多くあります。他県の発酵食が平均15種類くらいとすれば、福島には実に40種類以上の発酵食が存在しているのです。まさに「発酵県」といえるでしょう。
日本の発酵文化を支えてきた大切な菌が「麹菌」です。日本酒や味噌、醤油、米酢も麹菌がいるから作ることができました。これらの発酵食をお腹に入れることで、私たちの健康も支えられています。
味噌や納豆には感染症の原因となる病原体が体内に侵入したときにすみやかに撃退する免疫パワーがあります。また、炊いたご飯に麹菌とお湯を混ぜて発酵させた甘酒は、体のエネルギー源になるブドウ糖、ビタミンB1、B2、B6、ビオチン、パントテン酸などのビタミン類の他、必須アミノ酸も含む、栄養豊かな“飲む点滴”です。
発酵食が美容に良いのは整腸作用のおかげ。腸内の老廃物を排泄に導き、細胞の新陳代謝を高めます。麹菌は、発酵過程でコウジ酸という美白成分を産生します。私は福島県小野町の造り酒屋に生まれたのですが、祖母がお酒にユズなどの柑橘を搾り、日本薬局方のグリセリンを酒の1割ほど混ぜたものを「美人水」と名付け、近所の人に配っていたんですね。グリセリンによって酒に含まれるコウジ酸やアミノ酸が肌に浸透しやすくなり、柑橘にはビタミンCが含まれます。しもやけやあかぎれの悩みが消えた、と評判だった「美人水」は、いま思うと大変理にかなった美容液だったというわけです。
発酵食は、米や麦、豆、野菜や魚といった原料を発酵微生物の力で作りあげる究極の自然食品です。私も今年で80歳になりますが、加齢臭が全くしないと言われますし、ご覧の通り肌もつやつやです。子どもの頃から発酵食を食べ続けてきた生き証人といえるでしょう(笑)。
“発酵県福島”で、多彩な発酵食をぜひ味わい尽くしてください。