INTERVIEW インタビュー

特別インタビュー

HAGI オーナーシェフ
萩 春朋さん

目に見えない菌と対話し操る
発酵は福島の暮らしの一部

フランスでも学ばれた萩さんと福島の発酵食品の接点について、一見すると分からない気がしますが、レストランで福島の発酵食品を使われているそうですね。

はい、まずはワインと日本酒ですね。フランスのワインを好まれるお客さまがいらっしゃるので置いてはいますが、基本的には福島のものです。それに味噌や醤油も使いますし、自分でも年間30〜40種類のくらいの発酵食品をつくっています。

味噌や醤油も使われるとは驚きです。

味噌は自分でもつくりますし、醤油はいわき市にある山田屋醸造さんの生醤油を使っています。食材によっては味噌や醤油が非常に調和するものもあります。僕にとって味噌と醤油は、発酵の旨みがあるうえで塩を振る感覚。香りや旨みがぐっと上がって、引き締まった味にしてくれるんです。
つくっている発酵食品は、季節の野菜を塩水で乳酸発酵させたものです。ブイヨンなど動物系のものにできるだけ頼らず、この発酵エキスを料理に加えています。福島県の浪江町はご存知ですか? 町花がコスモスの町で「コスモスから酵母が採れた。この酵母はアルコールよりガスをよく出すから、パンをつくってみたらどうか?」と浪江町にある鈴木酒造店さんが連絡をくださったんです。取り寄せて試作したところ、ドライイーストのような発酵力と天然酵母のようなおいしさに仕上がりました。お客様からもパンが美味しいと好評いただけるようになりました。

発酵食材を使ったメニューを提供されていて、お客様からどんな反応がありますか?

お客様から、調理の仕方や保存方法等を聞かれ、ご自宅でも試してみたいという声をよくいただきます。ご自身でも簡単に作ることができる物が多いので、是非自分で作って試していただきたいです。


発酵食品を多用した料理を召し上がったお客さまの反応はいかがですか?

例えば、先ほど紹介した生醤油は酵母が生きたまま口に入ります。人間の舌はすごく敏感な感覚器だと思うんです。顕微鏡でしか見えない小さなものですが、味比べをすると生きた微生物の存在を感じているじゃないかと。無意識のうちにいろいろな菌を取り入れたいという欲求があるのかもしれません。生きた発酵食品を使って仕上げた料理も好評いただいております。

食の嗜好はそうした社会的な背景にも影響を受けているのかもしれませんね。最後に、萩さんは福島の発酵食品について、どのような印象を持たれていますか?

発酵は難しいことではないと思います。菌は生きるために栄養を取り入れてアルコールとガスを出し、人間は生きながらえるために昔から発酵食品をつくって食べていた。“いわきのチベット”と言われるような山奥に住んでいるおばあちゃんが、いろんな発酵食品をつくられているということで勉強しに行ったことがあるんです。おばあちゃん曰く「冬を生きていくために夏のうちに発酵食品をつくる」と。だから「◯◯の花が咲く頃に漬け込むと失敗しない」とか、塩分は腐らない程度の塩梅でとか、知識ではなく生活の一部で、菌とともに生きているんですよね。このおばあちゃんだけでなく、福島には菌の声を聞いて操れる人が多くいて、それが食文化として今も受け継がれているのは誇らしいことだと思います。みなさんがどんなふうに菌と対話されているのか、ぜひ聞いてみたいです。